Artist Series



Keishi Yonao / Cyberphonic 1

Liner Notes

 今回のアルバムでは、近未来をテーマに無国籍なフレーバーなどを取り入れながら表現しようと試みました。手前勝手に、「サイバーフォニック」というキーワードを創作してイメージを盛り上げてみましたがいかがでしょうか?

95.12 与猶啓至

 よなさんって、「プログレ・ジャン・ミッシェル・サウンド」って感じですよね。凄く好きです。

95.12 細江慎治

 与猶啓至氏とお会いしたのはずいぶん前のことになる。場所はつい先日惜しまれつつ休刊となった雑誌「Oh! X」編集部である。第一印象は謙虚そうな音楽青年といったところ。確かあの時、Arsysのゲームミュージックはイイという話で盛り上がった。

 それはさておき、氏の初のコンセプトソロアルバム「サイバーフォニック」が完成したということで、力及ばずながら、私も推薦のコメントを書かせてもらうことになった。

 その筋の方達にはもはや説明するまでもないが、氏は主にX680x0というパソコンのゲームソフトのBGMで高い評価を受けてきた。システムサコムの3Dシューティング「メタルサイト」('89)のBGMでは安芸出氏との競作でMT32(Roland)にも対応した曲が話題になった。当時は日本のゲームソフトでMIDIに対応したものも少ないので、「対応」という事実自体も話題となったが、シンセサイザくささを味方にした曲づくりはまさに新感覚芸術的で、私もメタルサイトの曲を聴くだけのためにMT32を購入した。
 続いてのビクターの3Dシューティング「ニューラルギア」('90)のBGMは初の与猶ソロ作である。「メタルサイト」ではプリセット音オンリーだったMT32での演奏もこの時には100%オリジナルの音色で奏でられており、まさに100%与猶サウンドが楽しめる記念碑的な一作である。私が特に好きなのは森林面の曲で、独特なコードワークを目の当たりにし、ずいぶん熱くなった思い出がある。
 その他私の好きな与猶節にはファルコムのシューティング「スタートレーダーX68版」などがある。話すと長くなりそうなので短く切り上げるがプロミネンス面の曲が私は好きだった。そう、ニューラルギアの森林面に通ずるモノがある。こんな感じなのが与猶節なのだと私は一人で思い込んでいる。
 さて、今回発表となった「サイバーフォニック」はサイバーネティクス(Cybernetics)とシンフォニック(Symphonic)との合体造語だと思われる。
 与猶節ファンの私としてはいやおうがなしに期待が高まる。

 確かにジャズやフュージョンとも違う、なにかまったく新しいサウンドがそこにはあった。シンセによるシンセならではの器楽。音ネタをちらばめるだけの自慰行為的な偽テクノが横行するなかで、これだけ音楽性に長けたシンセサウンドはここ数年久しぶりに聴いた気がする。そして瞬間瞬間に見え隠れするバロック的な節回しが、美しいながらも人工的なシンセの響きに温もりを添える。決して万人受けするリリカル・メロディアス路線と言う感じではないが、そこには確かに巧妙な技で綴られた音楽の「おもしろさ」が存在するのだ。

 今ここにまったく新しい音楽ジャンル「サイバーフォニック」が誕生したのかもしれない。

95.12 西川善司

 よなさんの曲はテンションが高い。というかなにかせっぱつまっている。聴いていると次第にギリギリの高揚感とでも言うべき感覚に身を包まれ、全身を緊張が駆けめぐる。しかしそれが妙に心地よい。ぐいぐいとひっぱられるように曲の中に引き込まれてしまう。そして曲のテンションは決して下がらない。それどころかたいていの場合は上がり続ける。「盛り上がりっぱなし」なのである。聴いてるだけでもかなり精神力がいるのに、なぜかそれがたまらなく心地よい。もうよなさんの曲は10年以上聴き続けているのにあいかわらずそうなのだ。この感覚は一体なんなんだろう?

 そして「サイバーフォニック」。初めてこの言葉を目にしたのはもう何年前か、ARTIFICIAL SELECTION(の原型と言うべきか?)がMDXとしてパソコン通信上にアップロードされた時だった。その時、現代的なビートに乗ったクラシカルなメロディ(陳腐な表現で申し訳ない)がたまらなく心地よく思え、ぜひこの路線の完成形が聴きたいと思ったものだ。だからよなさんがサイバーフォニックでCDを作ると聞いた時はその完成を心待ちにしていた。そして完成版を一聴した時、「やっぱり!」と思わずにはいられなかった。期待通りのあの緊張と快感が数段上のレベルで結実していたからだ。とにかく聴いていて気持ちがいい。この快感はとても言葉までおりてこない。なんと言ったらいいのだろう? 本当に判らない!

 とにかく皆様にも聴いていただきたいのである。この曲群は、麻薬のようであり、スルメイカのようでもあり、砂糖菓子のようでもあり、空気のようなものでもあるからだ。あいかわらず私を楽しませてくれる曲を世の中に送り出し続けてくれるよなさんに深い感謝を表しつつ、この駄文を閉じさせていただく。これからももっと僕を面白がらせて下さい、お願いします。

95.12 高橋哲史